ロジック

  • ロジックは、適切に使えば我々が一般に想像している以上に有効な手段である。しかし同時に、ロジックは手段に過ぎない。誰が、なぜその手段を選択しているのかが問われる。
  • 我々は、感情を押し通すためにロジックを使い、ロジックによる計算の結果特定の感情を表現する。ロジックと感情は、一般に表裏の関係だ。
  • 表現の裏には感情がある。論理の裏には非論理がある。我々は後者を常に表にだすわけではない。ナイーブにこれらを表に出すことで、却って目的から遠ざることもあるからだ。
  • 何を言葉にし、何をしないか、言葉にするとしてどのような表現を選択するかは、結局その波及効果を見据え、プロセスを逆算した上で構想した戦略なのだ。
  • 戦略の中で最も重要な条件の一つは、社会環境への適応だ。
  • 我々が社会の中でのどのようにロジックの価値を重視/軽視し、感情に基づいたコミュニケーションをどのように展開して行くかは、この、我々に前提として与えられた社会環境への適応の結果なのだ。
  • そして同時に、この適応の結果こそが、次の瞬間の社会環境を構成していく。
  • 不思議なのは、なぜ人々はこうも簡単に相手に手の内をばらすのだろうか、ということ。そして逆に、なぜこうも簡単に他人の表面的な言葉に影響されてしまうのだろうか、ということ。
  • それらを解くカギもまだ、この社会環境への適応過程をつぶさに観察し、分析していくなかで見いだせるのではないかと考える。

生態系の多様性

  • で、こうなると問題になるのは個人の体験価値をどう推定するかってことで、それは心理学の領域になる。
  • まあでも実際にはそんなに簡単なものではなく、商品開発に落とし込むにはかなり話をはしょらないといけなくなるはず。
  • そこで怖いのが、個人の体験価値が過度に単純化されてしまうこと。
  • その、過度に単純化された体験価値を実現するために商品開発が行われ、それによって構成された生態系の中で「単純な」体験を繰り返して成長する消費者は、結局「単純な」体験価値への感受性しか持ち得なくなるのではないだろうか。
  • 予言の自己成就みたいなことが起こりうるのだ。本来単純でなかったはずの体験価値のバリエーションが、商品開発上の理由から「単純なもの」と仮定されてしまい、それによって「単純な」消費環境が構成され、結果としてその環境への適応として「体験価値感受性の単純化」が生じ、実際の体験価値も単純化する、ということ。
  • 消費者はそんなにバカじゃないですか?
  • 個々人の生態系の単純化に加えて、社会の構成員それぞれの持つ生態系のバリエーションも単純化するだろう。
  • 自然環境については、環境保全とか、多様性の維持、絶滅危惧種の保護ということはよく言われるが、文化環境に関してはあまり意識されることが無い(マイナー言語の絶滅とか、民族の伝統的習慣の消失を危惧したりはするけど、そんな「政治的に重要」じゃない生活文化みたいなの)。
  • しかし、個人や社会の体験価値の多様性って、結構大事だと思うんだけどな。

生態系

  • ちょっと別の話だが、「生態系」と言った時、その構成単位が何なのかよくわからない。「商品」「サービス」なのだろうか?そうすると同じ生態系でも消費者一人一人にとってその意味というか、認知が全然違ってしまう。
  • 一番しっくり来るのは、ある一人の消費者にとっての「体験」もしくは「体験価値」を構成単位とすること。その消費者が、消費生活をはじめとする市民生活の中で得る様々な体験価値の相互作用の総体が、その消費者にとっての「生態系」。原理的には消費者の数だけ生態系が同時存在する。もちろん実際にはある程度のセグメンテーションで代用。
  • しかしこれを観測・記述するのはおそろしく困難というかほぼ不可能なので、「商品×典型的な体験価値のいくつかのバリエーション」のマトリックスあたりで代用するんだろうな。

人生コンサルティング

  • 結局こういうことを伝統的に(曲がりなりにも)やってきた職業って、「宗教家」なのではないかと思う。
  • ただしそれが現代においてどのように機能しているかは別問題で、ここはひとつ通常のビジネスの枠組みで考えてみることが生産的だろう。
  • しかし企業側、つまり供給者側がこれをトータルで行うのは無理ではないか。企業と生活者の間に立って、前者のプロダクト・サービスを組み合わせて後者に消費行動を提案し、後者のニーズを吸い上げて前者に商品化を提案する、中間プレイヤーがその役割を担うべきだと思う。
  • イフコンサルティングって言葉は生命保険の分野ですでに使われているようだ。それはそれで皮肉な話だ。
  • 保険とか、資金運用とか、キャリアデザインとか、健康管理とか、メンタルケアとか、個別の分野では個人向けのコンサルティングやカウンセリングがビジネスとして成り立っている。しかしトータルな生活、トータルな人生を対象にしたものは私の知る限り存在しないようだ。
  • それに、上記ビジネスは、基本的に企業寄りで、企業に対する逆提案とか、企業活動のコントロールみたいなことはあんまりしてなさそう。というかできなそう。消費者団体とかは別かな。
  • カウンセラーにしても、社会の現状にどうクライアントを適応させるかって話で、クライアントが生きやすいソーシャルデザインを社会に提案するという機能はあまり果たしてなさそうだ(そもそもそういう動機があるのかどうかはよくわからない)。
  • いずれにしてもシングルプレイヤーが担うには大きすぎる問題で、(言い古された言葉だけど)「集合知」をうまく引き出せるようなインタラクティブなシステム設計が必要なんだろうな。
  • 意外とアマゾンとか楽天が将来的にその役割を担ったりして。それもなんか嫌だな。「この商品を買った人は将来この大学に進んで、このような方と結婚されています。」とかアドバイスされたりして。