その場所

その場所には実は何もないということにはとっくの昔に気づいていた。
しかし一方で、その場所から離れてみると、何やらその場所の記憶がたいそう意味ありげなものとして、折に触れて蘇ってくるものだ。


時々衝動的にその場所に戻って見たりもするが、当然のことながら、やはり何も無いということを確認させられるだけなのだ。


「その場所」とは、そのようなものなのだ。


私が怒りを覚えるのは、その場所から強制的に私たちを引き剥がそうとする奴らのことだ。
その場所から引き剥がすことによって、私たちの抗い難い習性を利用し、私たちにその場所の記憶を意味ありげなものとして蘇らせ、その場所へと再び戻ろうとする動機を植え付けようと企む奴らのことだ。