最近読んだ本

系統樹思考の世界 (講談社現代新書)

系統樹思考の世界 (講談社現代新書)

ずいぶん昔に、あるシンポジウムで著者に会った。進化のプロセスを「人間(進化論研究者)の認知の仕組み」という観点から整理するという発想を大変面白いと思った。実在論者ばかりだと思っていた生物学者にもこのような人がいるんだと知った。
最近になってネット上で久しぶりに著者の名前を見つけ、新刊を出したことを知ったので読んでみることにした。
確かに面白い。生物進化の話だけではなく、万物の歴史性への我々人間のまなざしを「系統樹思考」という言葉で束ねて統一的に論じる、スケールの大きな著作だ。
ただ残念なのは、文章が読みにくい。分かりにくいのかといえばそうでもない。むしろ大変分かりやすい。それにも関わらず読みにくい。細かいところにロジックの不備があるのだ。当然根拠が示されるべきところが、同語反復的な言い切りで済まされていたり、必ずしも自明とは言えない概念が説明無しで導入され、その後はそれを前提に話が進んだりする。意図的な演出なのだろうが、あるレベルの話とメタレベルの話が混交する。それから、抽象的な話が多い中で唯一と言っていい実例が、例として不適切。(p60-p61 「データが完全無欠ではない」ことを示すために持ち出した実例が、「確実な観察データがあったとしても対立仮説間の真偽に決着を付けることはできない」実例になってしまっている。)それやこれやで、随分損をしていると思う。着眼は大変ユニークなので、次作に期待したい。